2024年8月に初めて南海トラフ地震臨時情報が発表されました。そのときにはじめて知った者は多くいたと思います。もう知っている者は多いと思いますが、解説しておきます。
情報の意味
「南海トラフ地震臨時情報」は、南海トラフ沿いを震源とした巨大地震が発生する可能性が平常時よりも相対的に高まったときに、警戒を呼びかける情報です(※昔は東海地震予知情報というものがありましたが、起きる気配がなく、そもそも東海地震自体は南海トラフ地震の一つで、東南海・南海地震と同時期に起きることの方が多く、単独の可能性は低いとして予知情報は取りやめとなりました)。以下のように基準が設定されていて、それぞれの情報ごとに対応が異なります。
南海トラフ沿いでは平均100~150年の間隔で、過去に繰り返し巨大地震を発生させてきた領域であることが分かっています。近年の巨大地震の記録は1707年に発生した「宝永地震(M8.9)」、そして1854年に発生した「安政東海地震(M8.6)」「安政南海地震(M8.7)」、前回の地震である「昭和東南海地震(M8.1)」「昭和南海地震(M8.4)」です。前回の地震から80年ほど経過していて、次の地震が発生する可能性が高まっていて、この地震が発生すると最悪の場合、国難にもなり兼ねないほどの大災害になり兼ねないことから、注目されている巨大地震です。図で赤色で表されている領域が、国が想定している震源域となっていて、最悪ケースでM9.1に達するとされています。また、南海トラフ沿いでは様々な発生パターンがあることも分かっています(南海トラフ地震の詳細については後ほど別記事で解説)。
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南海トラフ地震臨時情報は、想定震源域内で速報値でM6.8以上の地震が発生したなどの現象が発生した場合に、南海トラフ地震と関連性があるのかどうかを調査を開始する「調査中」という情報が発表されます。
その後、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の臨時会合で調査結果を受けて、「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」のいずれかの情報が発表されます。2024年の8月に発生した日向灘の地震では、このうち「巨大地震注意」が発表され混乱が生じました。
「調査終了」の場合は、大地震の発生に注意しながら通常の生活をします。

巨大地震警戒
一つ目は「巨大地震警戒」です。これは、南海トラフ沿いの想定震源域内で、調査の結果Mw8クラス(Mw7.8)以上の地震が発生した場合に発表されます。つまり、この情報が発表されたら、すでに南海トラフ沿いで巨大地震が発生していることを意味します。
しかし南海トラフ沿いでは、一つ目の巨大地震が発生した後、もう片側でも巨大地震が発生してきたことが分かっています。1854年では最初に東側で巨大地震が発生した後、その地震から32時間後に西側で巨大地震が発生しました。前回の地震は同じく最初に東側で巨大地震が発生した後、今度は約2年という期間を空けてから西側で巨大地震が発生しました。

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- 地震発生後に事前避難が間に合わない地域に住んでいる人たちは、事前避難が求められます
- 日頃からの地震への備えを再確認し、避難できる準備をしておきます。
家族の所在の確認すること・地域の危険性の把握し、実際に避難できるか確認することなどの日頃からの備えと緊急の備えをしてください。地震発生後に事前避難が間に合わない地域に住んでいる人たちは、津波警報解除後に事前避難をします。巨大地震直後なので、むしろ実際に行動することの方が重要となります。
あまり周知されていないことなので、記述しますが、巨大地震発生後は南海トラフ沿いの巨大地震ばかりに意識が向きがちになっていると危険です。南海トラフ沿いで巨大地震が発生すると大規模な地殻変動の影響で、西南日本などは内陸地震やスラブ内地震などの南海トラフ沿いのプレートの境界付近で起きる地震とは別のタイプで発生する地震も誘発する可能性が高いです。東北地方太平洋沖地震では、長野県北部や静岡県、福島県の内陸部などでも大地震が発生したのが良い例です。巨大地震の影響で、火山噴火も誘発する可能性もあるので、その対策も必要だということは頭の片隅に入れておいてください(宝永地震では、49日後に富士山で大噴火が発生しています)。
巨大地震注意
ニつ目は「巨大地震注意」です。これは南海トラフ沿いの想定震源域内で、以下の場合に発表されます。こちらは1週間程度、日頃からの地震への備えの再確認に加え、緊急の備えをします。
- 調査の結果、監視領域内(想定震源域+トラフ軸から外側50kmまでの範囲)でMw7.0以上の地震が発生した場合
- 想定震源域内のプレート境界面において、通常と異なるゆっくりすべりが発生したと評価した場合
上記で気になっている方もいるいますが、「Mw」というのはモーメントマグニチュードです(前の記事で説明していますが、モーメントマグニチュードは、断層のずれを考慮したマグニチュードで、気象庁マグニチュード(Mj)とは違います)。それが7.0以上だった場合に発表されます。これは東北地方太平洋沖地震がきっかけであり、本震発生の2日前にMw7.3の地震が発生していました。

もう一つは「ゆっくりすべり(スロースリップ)」です。プレートの境界や断層では大地震が発生する前にゆっくりとプレートや断層が滑る現象が起きることも確認されています。こちらも東北地方太平洋沖地震で確認されていました。
ただ、ゆっくりすべりが起きたからといって、必ずしも巨大地震が起きるというわけではありません。巨大地震を引き起こす大元はプレートの境界面・断層面に溜まるひずみの蓄積量です。固着状態に変化がなければ大地震も起きません。

伝えたいこと
「南海トラフ地震臨時情報」は、あくまでも大規模地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると評価された場合に発表されるものですので、不確実であるということは忘れてはいけません。臨時情報が発表されないまま巨大地震が発生する可能性や、「調査中」になっているときに発生してしまう可能性、逆に臨時情報が発表されても起きないなどあらゆるケースが考えられます。やはり、日ごろからの備えと訓練が最も重要です。
他にも「南海トラフ地震臨時情報」のような情報は、東日本で危惧される千島海溝・日本海溝沿いの「北海道・三陸沖後発地震注意情報」というものがありますが、こちらも同じく日ごろからの備えと訓練が最も重要であることは変わりません。